エゾシカの処理方法
エゾシカの処理方法 部位、骨の汁、干し肉、今の決まり
エゾシカはアイヌの人々の狩りの中心でした。肉を食べ、脂を料理に使い、毛皮と角と足の腱まで加工し、食べ残した骨は捨てずに供養しました。この画面は、本と公的な資料に書かれた部位ごとの処理と料理を整理し、今の法律と衛生の決まりを添えたものです。

ユㇰ(エゾシカ)は狩りの中心で、神送りの儀式も行われました
エゾシカは北海道の森と原野に住みます。乱獲で絶滅寸前まで減りましたが、保護で回復し、今は畑や樹皮への食害、交通事故が問題になっています。2014年の北海道エゾシカ対策推進条例で、個体数の管理と、肉を食材として使う有効活用が進められ、加工品や通販で身近な食材になってきました。
アイヌの人々は昔から、シカの肉を食材にするほか、脂を料理に使い、毛皮、角、足の腱まで無駄なく加工しました。一部の本に「エゾシカそのものの神はいない」という説明がありますが、実際には神送りの儀式も行われており、誤解があると本は書いています。
狩りの季節は毛皮のため主に冬から春です。交尾の時期には獲らず、子どもも獲りません。猟師は軽装で、夜が明けるころには食事を終えて出かけ、無理をしませんでした。山での料理は小刀ひとつで作り、塩を使わず、血など動物の持つ塩分で味をつけました。
出典: 『アイヌのごはん 自然の恵み』魚と陸獣図鑑・「アイヌ料理」とは何か、北海道「エゾシカ対策推進条例」
エゾシカの部位と、処理と料理
| 部位 | 処理 | 料理 |
|---|---|---|
| もも肉 | 3mmほどに薄く切って水から煮る。平取では一度ゆでこぼし、洗ってから煮直す。燻製は塩25gと砂糖12gを600gの肉にすり込み、冷蔵庫で2日、塩抜き2時間、冷蔵で2日乾かす | 肉汁(ユㇰオハウ)、焼き肉、紅茶煮、スモーク、味噌炒め(白糠) |
| 横隔膜 | 食べやすく切り、強火の油で均一に火を通す | 油炒め(アサツキと)、焼き肉、肉汁 |
| 心臓 | 薄く切る | 油炒め(ニリンソウと)、焼き肉。本には刺身(フィペ)もありますが、野生の肉の生食は勧めません |
| 肝臓・腎臓・膵臓 | 本は、陸の獣の刺身には主に内臓を使ったと書く | 記録として。生食は勧めません |
| 脂(骨髄と背脂) | 骨髄や背脂を炊いて脂を取る。昔は汁の仕上げに入れた | ヒエご飯、汁の仕上げ、ササゲの油、ラタㇱケㇷ゚の油 |
| 骨(足骨・背骨・あばら) | 筋肉が少し残った骨を水から弱火で2日ほど煮る。煮汁が透明になるまで浮いた脂をくり返しすくう。台所では圧力鍋で短くできる(脂取りは圧力をかけずに) | 骨の汁。器に先をはけ状に削った木の棒を添え、髄をかき出して食べる |
| 食べ残した骨 | 捨てずに全部集め、聖なる場所に送り場を設けて納め、儀式で供養した | 鳥や小さな獣は骨までたたいてつみれにするので骨が残らない |
| 干し肉 | 囲炉裏につるす。魚や肉がたくさん獲れる時期は燻製の小屋も使った | 干し肉、越冬の保存食 |
| 毛皮・角・腱 | 加工品に | 食べもの以外の利用 |
出典: 『アイヌのごはん 自然の恵み』汁物・焼き物・炒め物・刺身・魚と陸獣図鑑、アイヌ民族文化財団「山の幸の料理 平取地方」p.25〜38
肉汁(ユㇰオハウ)の処理の流れ 本と平取の資料から
- 肉は脂身を切り落とし、食べやすく切る。本は横隔膜などを3mmほどに薄く切る。鹿の脂は口に残りやすいので除く(平取)
- 平取では水から煮て、沸いたら一度湯を捨てて肉を洗い、新しい水で煮直す。本は昆布と肉を水から中火にかける
- アクをすくい、弱火で肉がやわらかくなるまで煮る。水が減ったら足す
- 根菜(ジャガイモ・ニンジン・ゴボウ・ダイコン)を入れ、やわらかくなるまで約20分
- キャベツ、シメジ、下ごしらえしたワラビ、干した山菜(フキ・コゴミ・ニリンソウ・ギョウジャニンニク)を入れる
- 塩で味をととのえ、長ねぎや刻んだ青物を入れて火を止める
分量の目安(4人分): 骨つきの鹿肉かもも肉500〜600g、ジャガイモ3個、ニンジン1/2本、ゴボウ1本、長ねぎ1/2本、水約1.5L、塩小さじ1から。平取の資料の約10人前の分量から割り出したものです。
今の決まり 狩猟、処理施設、衛生
狩り: 狩猟をするには都道府県の狩猟者登録が要ります。獲ってよい鳥獣の種類、区域、期間、方法は法律で決まっています。本の鳥のつみれ汁の写真はオオアカゲラですが、アカゲラの仲間は今は狩猟できません。
処理: 厚生労働省の「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」は、捕獲から運搬、処理、加工、調理までの衛生を定めています。食肉処理業の許可のある施設で解体された肉を買います。北海道にはエゾシカ肉処理施設の認証制度があります。
調理: 野生の肉はE型肝炎ウイルス、腸管出血性大腸菌、寄生虫を持つことがあります。中心まで75℃で1分以上(同じ効き目の加熱でもよい)火を通し、生や半生では食べません。野生の肉を扱ったまな板と包丁は、ほかの食材と分けて洗い、消毒します。
この画面に載せた刺身(フィペ)と内臓の生食は、本に記録された昔の食べ方です。作ることは勧めません。
陸の獣と鳥の一覧
エゾシカのほか、ヒグマ、エゾタヌキ、鳥、小さな獣。それぞれの部位と料理。
陸の獣
- ユㇰyukエゾシカ Cervus nippon yesoensis
- 時期
- 狩りの季節は毛皮のため主に冬から春。交尾の時期と子どもは獲らない
- 使う部分
- もも肉、心臓、横隔膜、肝臓、腎臓、脂(骨髄と背脂)、骨(足骨・背骨・あばら)。毛皮、角、足の腱まで使った
- 処理
- 汁は3mmほどに薄く切って水から煮る。平取では一度ゆでこぼして洗ってから煮直す。骨は2日ほど弱火にかけ、浮いた脂をくり返しすくう。髄は先をはけ状に削った木の棒でかき出す
- 保存
- 干し肉。今は燻製(もも肉を塩と砂糖で2日、塩抜き2時間、冷蔵で2日乾かし、2時間いぶす)
- 使い方
- 肉汁、骨の汁、紅茶煮、油炒め(心臓・横隔膜)、焼き肉、心臓の刺身(フィペ)、燻製、脂をヒエご飯や汁に
- 注意
- 野生の肉は中心まで75℃で1分以上加熱します。生や半生で食べません。食肉処理業の許可のある施設で解体された肉を買います。狩りには都道府県の狩猟者登録が要ります
- 地域
- 北海道の森と原野。2014年の北海道エゾシカ対策推進条例で、肉の利用が進められています
この材料の料理 オハウ(汁物)の考え方(具のたっぷり入った汁。昔の主食)、ユㇰオハウ(エゾシカ肉汁)(薄切りの鹿肉と根菜、きのこ、ワラビの汁)、エゾシカ骨の汁(骨を2日煮てだしを取り、髄を木の棒でかき出す汁)、ヒエご飯(ヒエを炊いてエゾシカの脂を加える)、ササゲの煮物(水で煮たササゲを油につけて食べる)、エゾシカの紅茶煮(紅茶で煮てしょうゆ・酒・みりん・酢で味つけ)、焼き肉(エゾシカ・心臓と横隔膜)(鍋で肉を焼き、残った油でシシトウやギョウジャニンニクを焼く)、エゾシカもも肉のスモーク(塩と砂糖で2日、塩抜き、2日乾かして2時間いぶす)、トウモロコシの合わせ煮(干したトウモロコシと金時豆を煮て、餅と上新粉で練り上げる)、カㇺラタㇱケㇷ゚(下ゆでした鹿肉と野菜の味噌炒め)、肉の油炒め(エゾシカの心臓とニリンソウ・クジラとギョウジャニンニク・エゾシカの横隔膜とアサツキ)(強火で肉を炒め、山菜を加えて塩)、エゾシカ心臓のフィペ(心臓を薄く切り、ギョウジャニンニクを和える)、保存食の考え方(干し魚・干し肉・とば・干し山菜)(1年の半分が雪の北海道で、越冬の食料は保存食だった)、エゾシカの干し肉(囲炉裏につるすか燻製小屋で干した)、脂の取り方(魚・陸獣・海獣)(汁の甘みと満腹感のための脂)
出典: 『アイヌのごはん』魚と陸獣図鑑・汁物・焼き物・炒め物・刺身、厚生労働省「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」、北海道「エゾシカ対策推進条例」 - キムンカムイkimun kamuyヒグマ Ursus arctos yesoensis
- 時期
- 冬ごもりの時期に穴の中で出産する
- 使う部分
- 肉、内臓。脳と頭部の肉は霊送りの儀式だけの「たたき」に
- 保存
- 脂(旭川の資料は骨を煮て取る)
- 使い方
- くま肉のオハウ、たたき(儀式だけ)、脂。親ぐまと子ぐまは霊送りの儀式で丁重に神の国へ送る
- 地域
- 北海道の森と原野
この材料の料理 ヒグマのたたき(儀式だけ)(脳と頭部の肉を使う、霊送りの儀式にしか出されない料理)
出典: 『アイヌのごはん』魚と陸獣図鑑、アイヌ民族文化財団「イオマンテ 熊の霊送り【料理編】」 - モユㇰmoyukエゾタヌキ Nyctereutes procyonoides albus
- 使う部分
- 肉、肝臓、心臓
- 処理
- 皮をはいで内臓を抜き、部位ごとに切って洗う。脂が多くにおいが強いので、弱火で長く煮ながら途中2回水を替え、3回目の煮汁の脂をすくって野菜を入れる
- 使い方
- たぬき汁、肝臓と心臓の刺身。民話ではヒグマの叔父さんで、食事作りの係
- 地域
- 北海道の一部の森
この材料の料理 エゾタヌキ汁(脂を抜きながら煮るタヌキの汁)
出典: 『アイヌのごはん』魚と陸獣図鑑・汁物 - チカㇷ゚(鳥)cikap野鳥(オオアカゲラ・エゾライチョウなど)
- 使う部分
- ハトくらいの大きさまでは皮をむき内臓を抜いて、骨ごとたたく
- 処理
- 骨ごとたたいてつみれにし、昆布と野菜の汁に落とす
- 使い方
- 鳥のつみれ汁
- 注意
- 本の写真はオオアカゲラですが、アカゲラの仲間は今は狩猟が許されていません
この材料の料理 鳥のつみれ汁(小鳥を骨ごとたたいたつみれの汁)
出典: 『アイヌのごはん』汁物・「アイヌ料理」とは何か - 小さな獣キタキツネ・ウサギ・エゾリス・テン
- 時期
- 冬から春
- 使う部分
- 小さなものは骨ごとたたく
- 使い方
- つみれ。狩りはエゾシカを中心に、これらの獣と鳥もとった
この材料の料理 川と海でとる魚の一年(間引きの漁)(沿岸であらゆる魚を適度にとる)
出典: 『アイヌのごはん』魚と陸獣図鑑・「アイヌ料理」とは何か
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