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切り紙の絵。炉の火のそばで、年をとった梟が、ふたのある入れ物に羽をのせている

読み物 お話

梟の神が歌った謡 「コンクワ」

鹿と魚を粗末に扱うと、どうなるか。国を見守る梟の神が、自分の口で語る話です。知里幸恵が1923年に書き残した『アイヌ神謡集』の7番目の話を、9枚の絵で語り直しました。

紙芝居を始める

絵は、この話のために作った切り紙ふうのさし絵です

「コンクワ」は、梟の神が自分で語る話です

「コンクワ」は、知里幸恵(ちり ゆきえ)が編んで訳した『アイヌ神謡集』の、13の話のうち7番目の話です。語り手は、人間の国を見守る梟の神です。

『アイヌ神謡集』の話は、動物や神が「私は」と自分のことを語る形をとっています。この話も、年をとった梟の神が、天の国へ旅立つ前に物語ったものとして書かれています。

知里幸恵は1903年に登別で生まれ、旭川で育ちました。この本を書き上げた1922年に、19歳で亡くなっています。本にはアイヌ語の原文がローマ字で書かれ、となりに日本語の訳が並んでいます。

この話は、十勝や幕別に伝わる話として書かれたものではありません。ここでは、アイヌの物語の入口として紹介します。

出典: 知里幸恵 編訳『アイヌ神謡集』(1923年・郷土研究社)。青空文庫で全文を読めます。

絵で読む「コンクワ」

原典の日本語の訳をもとに、このサイトの運営者が語り直しました。話の順番と中身は、原典のとおりです。

画面いっぱいに開きます。矢印キーか、画面の右を押すと次へ進みます。

  1. 切り紙の絵。暗い家の中、赤い火のそばで、耳の羽が立った灰色の梟が、ふたのある丸い入れ物に羽をのせている

    1年をとった梟の神

    国を見守る梟の神は、すっかり年をとっていました。

    昔は、弓を鳴りひびかせるような声で話したものです。いまは、その力もおとろえました。

    梟の神は、シントコ(ふたのある入れ物)のふたをたたきながら言いました。

    「口が達者で、使いに立つ自信のある者はいないか。天の国へ、長い言づてを届けさせたいのだ」

    Kamuichikap Kamui梟の神。題にある語です

  2. 切り紙の絵。火をはさんで、梟が羽を広げて語り、向かいで黒いカラスが頭をたれて眠っている

    2カラスの若者

    入口で声がしました。「私のほかに、だれが使いに立てるでしょう」。カラスの若者でした。

    梟の神はカラスを家に入れ、シントコのふたをたたきながら、言づてを語りはじめました。

    三日がたちました。三つ目の用件を話しながら見ると、カラスは炉ぶちのうしろで居眠りをしています。

    梟の神は腹を立て、カラスを羽ごと打ちすえて、殺してしまいました。

  3. 切り紙の絵。目をつり上げた梟と、火の向こうで目を閉じて眠るカケス

    3山のカケス

    梟の神は、もう一度呼びかけました。

    次に入口に立ったのは、山のカケスでした。「私のほかに、天の国へ使いに立てる者がいるでしょうか」

    梟の神は、また語りはじめました。四日がたち、四つ目の用件を話しているうちに、カケスも炉ぶちのうしろで居眠りをしていました。

    梟の神は腹を立て、カケスも同じように打ちすえて、殺してしまいました。

  4. 切り紙の絵。火のそばで、小さなこげ茶色の鳥が梟のほうを向いて話を聞いている。上に太陽と月が並んでいる

    4川ガラスの若者

    三度目の呼びかけに、つつしみ深い様子で入ってきた者がいます。川ガラスの若者でした。美しい姿で、左の座にすわりました。

    梟の神は、夜も昼も語りつづけました。川ガラスは、つかれた様子も見せずに聞いています。

    昼と夜を数えて、六日目。梟の神が語り終えると、川ガラスはすぐに天窓から飛び出していきました。

    katken川ガラス。原典の注に、昔から大そういい鳥として尊ばれる鳥、とあります

  5. 切り紙の絵。かやぶきの屋根から、小さな鳥が星の空へまっすぐのぼっていく

    5天の国へ

    川ガラスは、天の国へのぼっていきました。

    届ける相手は、鹿を司る神と、魚を司る神です。

    言づての中身は、人間の国で起きていることでした。

    Yukkor Kamui / Chepkor Kamui鹿を司る神 / 魚を司る神

  6. 切り紙の絵。葉のない木が立つ暗い丘と、魚のいない川。遠くに小さな家が見える

    6鹿のいない山、魚のいない川

    人間の国は飢饉でした。人間たちは、いまにも飢え死にしそうです。

    山へ猟に行っても、鹿がいません。川へ漁に行っても、魚がいません。

    わけを見ると、天の国で、鹿を司る神と魚を司る神が相談をして、鹿も魚も出さないことにしていたのでした。ほかの神々が何を言っても、知らぬ顔です。

    梟の神は、それを見て腹を立てました。だから使いを立てたのです。

  7. 切り紙の絵。雲の中を、頭をたれた鹿の列と、黒い木切れをくわえた魚の列がのぼっていく

    7神々の返事

    何日もたって、空にかすかな音が聞こえました。川ガラスが帰ってきたのです。前よりも美しく、勇ましい気品をそなえていました。

    川ガラスは、二人の神の返事をくわしく伝えました。

    人間たちは、鹿をとるとき、木で頭をたたきます。皮をはぐと、頭をそのまま山の木原に捨てていきます。魚をとるときは、腐った木で頭をたたいて殺します。

    だから鹿たちは、裸で泣きながら鹿の神のもとへ帰ります。魚たちは、腐れ木をくわえて魚の神のもとへ帰ります。二人の神は怒って、鹿も魚も出さないことにしたのでした。

    「これから人間が、鹿も魚もていねいに扱うなら、また出そう」。それが返事でした。

  8. 切り紙の絵。赤と銀の魚がはねる大きな川と、金色の丘に立つ角のある鹿。遠くの家から煙がのぼっている

    8夢の中で教える

    梟の神は、川ガラスをほめたたえました。そして人間の国を見ると、たしかに人間たちは、鹿や魚を粗末に扱っていました。

    梟の神は、人間たちが眠っているとき、夢の中で教えました。これからは決して、そんなことをしないように。

    人間たちは、悪かったと気がつきました。それからは、魚をとる道具を、イナウ(木を削って作る祭具)のように美しく作りました。鹿をとったときは、頭をきれいに飾ってまつりました。

    魚たちは、よろこんで美しいイナウをくわえて、魚の神のもとへ帰ります。鹿たちは、よろこんで身なりを新しく整えて、鹿の神のもとへ帰ります。

    二人の神はよろこび、たくさんの魚と、たくさんの鹿を出しました。

    inauイナウ。原典の日本語の訳では「幣」「御幣」と書かれています

  9. 切り紙の絵。金色の空へ羽を広げてのぼる年をとった梟と、枝にとまって川と家を見下ろす若い梟

    9梟の神、天へ

    人間たちは、もう困ることも、ひもじい思いをすることもなく暮らしています。梟の神は、それを見て安心しました。

    「私は年をとり、弱った。天の国へ行こうと思っていた。けれども、私が守っている人間の国が飢饉なのに、かまわずに行くことはできなかった。いまはもう、気がかりは何もない」

    梟の神は、いちばん強い若い勇者をあとに置いて、人間の世を守らせることにしました。そして、天の国へ旅立ちました。

    と、国を守る翁の神である梟が、物語りました。

    Kotankor Kamui国(村)を守る神。原典の最後の行で、梟の神はこう呼ばれています

絵は、この話のために作った切り紙ふうのさし絵です

鹿と魚を粗末にしない、という作法

「コンクワ」で神が鹿と魚を出さなくなった理由は、人間の扱い方でした。話の中で、神が怒ったことと、人間が改めたことは、次のように対になっています。

話の中で、改める前と改めた後

改める前改めた後
魚をとるとき腐った木で頭をたたいて殺すとる道具を、イナウのように美しく作る
鹿をとるとき木で頭をたたき、皮をはいだ後、頭を山の木原に捨てる頭をきれいに飾ってまつる
魚が神のもとへ帰る姿腐れ木をくわえている美しいイナウをくわえている
鹿が神のもとへ帰る姿裸で泣いている身なりを新しく整えている
神の答え鹿も魚も出さないたくさんの鹿と魚を出す

表は、原典の日本語の訳から整理したものです。原典では、鹿が神のもとへ帰る姿を「新しく月代(さかやき)をして」と訳しています。

アイヌ語の原文では、魚は chep、鹿は yuk と書かれています。十勝の料理の名前「チェㇷ゚オハウ」(鮭の汁)のように、チェㇷ゚は鮭を指して使われることもあります。

チロットの展示にある、漆塗りのシントコ(行器)
2026年10月3日に撮影

話に出てくるシントコは、チロットで見られます

梟の神が、言づてを語るあいだ、ふたをたたいていた入れ物がシントコです。原典の訳では「たがつきのシントコ」と書かれています。

幕別町のチロット(幕別町アイヌ文化交流センター)には、漆塗りのシントコが展示されています。写真は、2026年10月3日に館内で撮ったものです。話に出てくるものと同じ形とはかぎりません。

話の中の道具を、実物で確かめられる場所です。

展示品の写真を見るチロットへの行き方

この話に出てくるアイヌ語

Konkuwa(コンクワ)
題になっている句。謡の最初に置かれています
Kamuichikap Kamui
梟の神
Kotankor Kamui
国(村)を守る神。梟の神のこと
Yukkor Kamui
鹿を司る神
Chepkor Kamui
魚を司る神
katken
川ガラス
shintoko
シントコ。ふたのある入れ物
inau
イナウ。訳では「幣」「御幣」
yuk / chep
鹿 / 魚

ローマ字のつづりは、原典(知里幸恵の書き方)のままです。いまの一般的な書き方とは違うところがあります(例: chep は、いまは cep と書くのが一般的です)。

この画面の文と絵について

文は、『アイヌ神謡集』の日本語の訳をもとに、このサイトの運営者が語り直したものです。原典は1923年に出版され、著作権の保護期間が終わっています。正確な言葉は、原典でお読みください。

絵は、この話のために作った切り紙ふうのさし絵です。梟、カラス、カケス、川ガラス、鹿、魚だけを描いています。アイヌの文様、衣服、人の姿は描いていません。家や入れ物の形は、絵としての表現で、実物を写したものではありません。

つづけて読む

出典

  1. 知里幸恵 編訳『アイヌ神謡集』(青空文庫 図書カード) 底本は岩波文庫(1978年)。親本は郷土研究社(1923年)。アイヌ語の原文と日本語の訳の全文
  2. 知里幸恵 銀のしずく記念館 登別市にある記念館。知里幸恵の生涯